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最近の研究紹介

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Raman innovation at PARC ラマンイノベーション

フォトニクスセンターでは、数々のラマン分光のイノベーションを起こしており、ナノラマン顕微鏡を製品化しています。
Raman and its application are one of the most deeply researched and developed at the photonics center here.


液晶-高分子複合体によりこれまでの液晶材料の100倍以上の応答速度を実現


液晶は、流動性(液体的性質)と分子配列秩序に起因する異方的性質(結晶的性質)をあわせ持つ光学材料です。液晶は電界により容易に分子配列を変化させるため、低い電圧(数V)駆動で大きな屈折率変調量(~0.2)を得ることができます。この特性を利用して薄型・省電力なフラットパネルディスプレイ(FPD)が実現され、ディスプレイの代名詞ともいえる存在となりました。一方で、液晶はその柔軟性ゆえに電界除去時の復元力が弱く、緩和時間が10ms程度と遅いという課題がありました。更に超高精細なディスプレイやディスプレイ以外のデバイスに液晶を応用するために、その応答速度を改善することが求められていました。

本研究では、液晶をナノサイズの空間に閉じ込めることで、復元力を大きくし、応答時間を3桁近く短縮(~10μs)することに成功しました。この成果により、電気光学応答の速さが重要となるデバイスにも液晶を応用することが可能になります。今回は応用例として、マイクロ秒でのスイッチングが可能な光シャッター及び20kHzで駆動可能な光モジュレーターを作製しました。有機材料特有のコストパフォーマンスの良さにより、安価な光デバイスを作製する技術として期待されます。また機械動作部分が無いため、耐久性が高く、信頼性が向上します。


Nematic liquid crystal nanocomposite with scattering-free, microsecond electro-optic response

Yo Inoue, Hiroyuki Yoshida, and Masanori Ozaki

Optical Materials Express, Vol. 4, Issue 5, pp. 916-923 (2014)

フォトニクスセンターのラマン分光イメージング研究が雑誌特集号に掲載されます

本センターのラマン分光イメージング研究


ラマン分光が脚光を浴びています。その背景には,光源や検出器の飛躍的な躍進があります。構造化学や材料工学だけでなく,文化財分析やバイオにも応用されるようになってきており,分析法としてこれからも様々な場面で活躍がきたいされます。

オプトロニクス2014年5月号特集では,多くのフォトニクスセンターのラマン分光イメージングに関する技術から応用研究の解説が掲載されています。最新のラマン分光の世界を覗いてみてください。

総論 …… 大阪大学 藤田 克昌
ラマン顕微鏡による細胞機能観察 
    …… 大阪大学 藤田 克昌
ラマン分光による生体分子イメージング
    …… 京都府立医科大学 原田 義規
多焦点リアルタイムCARS顕微鏡による細胞応答観測  
    …… 大阪大学 橋本 守
誘導ラマン散乱顕微鏡によるバイオイメージング
     …… 東京大学 小関 泰之
ラマン分光イメージングによる二次電池の観察
     …… ナノフォトン(株) 塩崎 祐介
ラマン分光イメージングによるカーボン材料の観察
     …… 大阪大学 齋藤 結花


スマートフォンのような小型デバイスで立体映像ディスプレイ


人の視覚は3次元の物体からの反射光を基に、物体を3次元のイメージで捉えることが出来ます。最近話題の3Dテレビは、二枚の平面画像を用いて左右の視差を利用し、立体と錯覚しているものです。

今回の立体映像は、ホログラフィーという古くからの技術で、実際物体からの3次元的な反射光(物体光)のスナップショットを再現するものです。

今回はガラス板の上の銀の薄膜に閉じ込められた非常に強い赤、緑、青の光を生じさせ、物体光を再現するのでフルカラーの立体映像が見えます。銀薄膜の強い光は、銀の伝導電子が照射した光で揃って振動することで生じます。背面のガラス板から白色光を色によって特定の角度で銀薄膜に照射します。ブランコのように、電子の集団を照射する光で揺すって振動させます。因みにこれをプラズモンと呼びます。
従来の技術を超えるのは、フルカラーで見えることに加えて、図のように背景が黒いことです。従来は像を再生させるための照明光は物体光に重なり、その光が目に入ります。今回の発明では、背面から照らした光はガラス板の上面で全部反射されるので、黒い背景に像が浮かび上がります。

物体光の源になる像を焼き付けた“フィルム”(ホログラムという)は、今回の発表では縦38mm×横26mm、再現されたリンゴの立体映像は指先ほどの大きさです。


Surface-Plasmon Holography with White-Light Illumination
Miyu Ozaki, Jun-ichi Kato, and Satoshi Kawata
218 8 APRIL 2011 VOL 332 SCIENCE
CLBO結晶
紫外レーザー光発生用の高品質な非線形光学結晶CLBO育成技術 次世代製造技術に不可欠


光ディスクのDVDやBDでは、レンズで絞ったレーザー光を使ってデータを記録したり読み出したりします。赤色(波長650nm)のDVDに比べて青紫の光(405nm)のBDでは、波長が短いためレーザースポットの直径は約1/1.6まで小さくなりデータ密度が向上しています。
可視光に比べ集光径がさらに小さくできる短波長紫外レーザーは、プリント基板の加工や半導体のマスク検査に用いられています。PCやスマホなどの次世代多層プリント基板レーザー加工では、回路のより高密度化が求められるため直径の小さな穴を基板に開ける必要があります。半導体製造用の露光パターンマスクの配線も年々細線化が進むため、微小欠陥を検査するために短波長紫外レーザー光が必要になっています。
フォトニクスセンターでは、森研究グループが紫外レーザー光(266nm、193nm)発生用の非線形光学結晶CLBOを発見して高品質化の研究を進め、上記の加工や検査に実際に応用される結晶育成技術を開発しています。

Phase-Matching Properties at around 190 nm of Various Borate Crystals
Chen Qu, Masashi Yoshimura, Jun Tsunoda, Kai Zhang, Yushi  Kaneda, Mamoru Imade, Takatomo Sasaki, and Yusuke Mori

Appl. Phys. Express 5 (2012) 062601

大気圧で安定なヘリウムのプラズマを簡単に生成 様々な応用が


ヘリウムの放電によって紫外光の中でも波長の短い光 (ヘリウムの共鳴線:波長60nm、エネルギー21eV)を安価で簡便に生成出来ます。

その他プラズマ源としても広い応用が考えられます。北野准教授は、これまで多くの異分野連携によるバイオプロセスに関する研究を進めてきました。バイオマテリアル:コアシェル型バイオセンサー用の金ナノ粒子の合成,プラズマ処理に適した生体適合性表面用の共重合体、ナノミセル粒子の安定化、近赤外蛍光バイオイメージング用ナノ粒子の耐酸性改善など。また、液体の殺菌、消毒治療への応用も期待されています。

プラズマ消毒治療のための液中殺菌技術とその物理化学モデル    北野勝久、 井川 聡、 谷 篤史

化学工学 75 p.356-358, 2011




HeLa(ヒーラ)細胞(ヒト由来の最初の細胞株)の紫外ラマンイメージ:赤は1490  cm-1のラマンバンド、青は1340  cm−1のラマンバンドの強度を示す。前者はアデニンとグアニンに対応し、後者は主にアデニンに対応すると考えられる。
紫外光の顕微鏡で、 ナノ材料、デバイス工学、生物・医学、新しい産業応用を切り開く


河田グループでは、紫外での研究を世界に先駆けて推進しています。紫外光は、様々な分子と強く相互作用するので、光スペクトルの中でも利用価値の高い波長域といえます。ナノ材料科学、デバイス工学、生物・医学で新しい情報を与え、新しい産業応用分野をも開拓するポテンシャルを秘めています。

例に示した結果は、生体機能の理解を目指して、紫外光を細胞の顕微鏡観察に応用して得られた結果です。光源、分光器、検出器、試料ステージ、光学素子 (レンズ、ミラー、フィルターなど) を組み合わせて、高い信号検出感度と十分な波数分解能と空間分解能を備えた深紫外ラマン分光顕微鏡を開発し、試料分子の光による変性に注意を払い、細胞内の核酸分布のイメージングを実現しました。DNAが細胞核内の核小体に、RNAが細胞質に、高密度で分布している様子が示唆されています。この結果は、細胞内の核酸の分布をサブミクロンの空間分解能で初めて観察したものであり、新しい顕微鏡技術を提案するものです。

Deep ultraviolet resonant Raman imaging of a cell
Yasuaki Kumamoto, Atsushi Taguchi, Nicholas Isaac Smith, and 
Satoshi Kawata

Journal of Biomedical Optics 17(7), 076001 (July 2012)
 
日本経済新聞 2012年9月25日(16面)

下のチューブより調べたい液を注入し、増幅したDNAの液を上のチューブより取り出し、試験紙に垂らす
インフルエンザウイルス、大腸菌などの有無が30分で分かる簡易検査装置


調べたい場所を綿棒などで擦る→試薬に浸す→液を検査チップに注入しウイルスのDNAを増やす(20分)→DNAに金ナノ粒子を付着させその液を試験紙に垂らす→ウイルスがいれば試験紙に線が表れる(1分)

試験紙には予めウイルスのDNAだけを捕らえる抗体を固定しています。

チップは大きさ5x8平方センチで、その電源はスーツケース程度の大きさ。試験紙はリトマス試験紙のような大きさ。簡易で早く検査できるので、食品工場に導入したり、学校給食調理場に置くと安心、安全を向上できます。

ウイルスでも微生物でも測定可能です。民谷研究グループでは、現在食中毒で問題となっている大腸菌O-157の測定を進めています。

Detection of influenza virus using a lateral flow immunoassay for amplified DNA by a microfluidic RT-PCR chip
Naoki Nagatani, Keiichiro Yamanaka, Hiromi Ushijima, Ritsuko Koketsu, Tadahiro Sasaki, Kazuyoshi Ikuta, Masato Saito, Toshiro Miyahara and Eiichi Tamiya

Analyst, 2012, 137, 3422


レーザーでマイクロスポット溶接 ガラスと銅板など


レーザーを透明材料に集光すると、強い光に特有の現象(普通の強度では透明だが強い光が吸収される)で集光点近傍のみを溶融することができます。この現象を用いて、ガラス同士の溶接や、ガラスと金属などの溶接が出来ます。これにはフェムト秒パルスという1000兆分の1秒の短いレーザーのパルスを用います。この技術を用いると、これまで出来なかった様々なデバイスの気密封止が可能となります。

Direct Welding between Copper and Glass Substrates with Femtosecond Laser Pulses

Yasuyuki Ozeki, Tomoyuki Inoue, Takayuki Tamaki, Hideaki Yamaguchi, Satoshi Onda, Wataru Watanabe, Tomokazu Sano, Shumpei Nishiuchi, Akio Hirose, and Kazuyoshi Itoh

Applied Physics Express 1 (2008) 082601





20 マイクロモルの EdUを含む培養液に6時間培養したヒーラー細胞のラマン・イメージ。赤い色はアルキンの炭素原子三重結合の振動エネルギー分だけ変化したラマン光でEdUの存在に対応し、EdUが細胞の核のDNAに取り込まれている様子を示す。画像収集時間は49分です。

細胞の中の小さな生体分子の反応を見ることを可能にした新しい顕微鏡技術


光を使うとものの色が見えます。
物の色には、入射した光がその色のまま反射した光の他、物とエネルギーをやりとりして少し変わった色の微弱な光も含まれています(色の変化は物とその状態に依存します)。特殊な物では、光を当てた後に、特有の色の光を発する蛍光物質(無機結晶や分子)があります。

生体の研究では、蛍光分子を調べたいタンパク質に結合・色づけして観察する蛍光顕微鏡が普及し、生物科学の進展に大きく寄与しています。下村博士はクラゲから蛍光分子を抽出しノーベル賞を受賞しました。ただ、蛍光分子は20~30個以上の原子でできた大きな分子であるため、注目する生体分子本来の性質が変わったり、他の分子との反応が阻害されたりします。

そこで、はじめに述べた少し色の変わった微弱な光を取り出して見ることが出来れば、試料のありのままの姿を観察できます。物質と光とのエネルギーのやりとりにより異なる色の微弱な光が生まれることは、インドの科学者ラマンが1928年に発見し、ノーベル賞を受賞しています。それで、このような光で観察できる顕微鏡をラマン分光顕微鏡と言います。分光とは、いろいろな色の光の振る舞いを調べることで、ここでは特定の色の光で像を得るのに使われます。

ラマン顕微鏡の最大の難点は、非常に微弱な光を相手にしなければならないことです。大阪大学では、顕微鏡技術のイノベーションにより、従来何十時間もかかっていた観察を400分の一まで短縮・高速化し、ラマン「顕微鏡」を実用化しました。これにより、生体分子そのものを、その固有の色のラマン光により観察できるようになりました。例としては、細胞中のチトクロームcや脂質などがあげられます。ただ、生体分子なら何でもラマン光を発するものではありません。

そこで、一歩進めて、小さな分子で他の分子のラマン光の色とかけ離れた色の強いラマン光を出すものがあれば、それを蛍光分子のように調べたい分子に結合すれば、より多くの生体反応を観察できることになります。

ここで紹介するのは、そのような「光る」小さな分子アルキンとそれと結合したEdUという生体分子を用いて、細胞増殖に伴うDNA合成をリアルタイムでモニターできる顕微鏡技術です。これは、藤田克昌准教授と袖岡 幹子理化学研究所 主任研究員との共同研究の成果です。

アルキン分子は二つの炭素原子が強く結びついた構造(三重結合)を含み、この結合の振動エネルギー分だけ変化したラマン光を強く生じ(左上図矢印)、上で述べた望ましい分子です。EdUは細胞がDNAを複製する時の材料となる分子チミジンによく似た分子dUにアルキン分子を結合させた試薬です。生きて増殖している細胞にEdUを加えて培養し、EdUをDNAに取り込ませます。通常は、その後蛍光染色を含む複雑な化学処理をして、顕微鏡観察します。フォトニクスセンターで開発した高性能なラマン顕微鏡を用いると、この複雑な後行程無しに、且つ連続してダイナミックにEdUがDNAに取り込まれる過程を観察できました。

高性能なラマン顕微鏡は、生物学だけでなく、材料、デバイスなど様々な科学、工学、技術、産業分野で研究と開発に大変役に立ちます。

Imaging of EdU, an Alkyne-Tagged Cell Proliferation Probe, by Raman Microscopy
Hiroyuki Yamakoshi, Kosuke Dodo, Masaya Okada, Jun Ando, Almar Palonpon, Katsumasa Fujita, Satoshi Kawata, and Mikiko Sodeoka

J. Am. Chem. Soc., 2011, 133 (16), 6102-6105